前回の記事で、誤嚥性肺炎とお口のケアについてお話ししました。
今回は、その続きです。入れ歯を使用されているご本人、そしてご家族や介護の現場で入れ歯のお世話をされている方に向けて、入れ歯と肺炎について今わかっていることと、毎日のお手入れについてお伝えします。
厚生労働省の令和6年歯科疾患実態調査では、80〜84歳の方の約半数が部分入れ歯を使っています。入れ歯は、高齢者の多くの方にとって身近なものとなっています。
はじめにお伝えしておきたいのは、この記事は「入れ歯を使うこと自体が危ない」という話ではない、ということです。入れ歯は、噛む・食べる・話すを支える大切な道具です。大切なのは、入れ歯そのものではなく、使い方とお手入れです。
寝ている間の、お口の中
眠っている間は唾液が減り、お口の中の汚れを洗い流す働きが弱くなります。
入れ歯の表面には、歯と同じように、汚れや細菌の膜がつきます。入れ歯をつけたまま眠ると、その汚れがお口の中にとどまる時間が長くなります。
そして、前回お話ししたとおり、誤嚥はご本人も気づかないうちに起きていることが多いとされています。眠っている間にも起きることがあります。
研究でわかっていること
2015年に発表された日本の研究では、ある地域で暮らす85歳以上の方524名を、3年間調査しました。入れ歯を使っていた453名のうち、約4割の方が、寝るときも入れ歯をつけていました。
そして、寝るときも入れ歯をつけていた方は、外していた方に比べて、肺炎の発症と約2.3倍の関連が認められました。同じ研究では、寝るときも入れ歯をつけていた方のほうが、舌や入れ歯の汚れ、歯ぐきの炎症が多かったことも報告されています。
また2019年の研究では、入れ歯を使っている65歳以上の方、約7万人へのアンケートを分析しています。入れ歯を毎日は清掃していない方は、毎日清掃している方に比べて、この1年間に肺炎にかかったことと約1.3倍の関連が認められました。
ただし、どちらも、普段の生活と肺炎との関係を調べた研究です。「入れ歯をつけて寝たから肺炎になった」と、原因と結果まで確かめたものではありません。ほかの要因が影響している可能性も残ります。
それでも、「夜は外す」「毎日洗う」という、どなたにもできることと関係している。その点に意味があると考えています。
入れ歯が悪いわけではありません
ここで、誤解していただきたくないことがあります。
熊本県阿蘇市の介護施設で行われた研究(2019年)では、飲み込む力に不安がある方のうち、入れ歯を使っていない方では、飲み込みに不安のない方に比べて肺炎が多く見られました。一方、入れ歯を使っていた方では、その差ははっきりしませんでした。この研究に携わった研究者は、入れ歯を使うことが、飲み込みの問題による肺炎のリスクを一部和らげているのかもしれない、と述べています。
対象は156名と小規模で、これも確かなことが言える段階ではありません。ですが、少なくとも「入れ歯を使うこと自体が悪い」という話ではないことは、お伝えしておきたいと思います。
お口に合った入れ歯は、噛むことや食事を支える大切な道具です。問題になるのは、入れ歯そのものではなく、使い方とお手入れのほうです。
毎日のお手入れ
当院で入れ歯をお渡しするときにお伝えしていることを、ご紹介します。
①外して、入れ歯用のブラシで洗う
毎食後、入れ歯を外して洗いましょう。そのとき、歯磨き粉は付けないでください。歯磨き粉に含まれる研磨剤によって、入れ歯の表面に細かな傷がつくことがあります。入れ歯専用のブラシを使って洗います。
あわせて、残っているご自分の歯の磨き方も大切です。国の調査でも、部分入れ歯を使っている方は、どの年代でも総入れ歯の方より多くなっています。部分入れ歯のバネがかかる歯は、汚れがたまりやすいところです。入れ歯を外したら、残っている歯も丁寧に磨いてください。
②入れ歯洗浄剤を使う
ブラシで洗うだけでは、落としきれない汚れもあります。日本義歯ケア学会のガイドラインでも、ブラシによる清掃と、入れ歯洗浄剤を併用することがすすめられています。毎日のブラシでの清掃に加えて、入れ歯洗浄剤も使いましょう。使い方や浸ける時間は、製品の説明や歯科医院の指示に従ってください。
③外した入れ歯は、ティッシュに包まずコップへ
外した入れ歯をティッシュに包んでおくと、そのままごみと間違えて捨ててしまう方がいらっしゃいます。外したら、ティッシュには包まず、コップなどの容器に入れる習慣にしましょう。
夜は外すのが基本。ただし、例外もあります
当院では、夜は入れ歯を外して、歯ぐきや粘膜を休ませる時間をつくるようお伝えしています。
ただし、入れ歯を外すと奥歯でまったく噛み合わなくなる方など、お口の状態によっては、寝るときも入れておいたほうがよい場合があります。そうした方には、夕食後に2時間ほど外して洗い、歯ぐきを休ませてから、寝るときに入れていただくようお伝えしています。
どちらがよいかは、お一人おひとりのお口の状態によって違います。自己判断で決めずに、担当の歯科医師に確認してください。すでに「夜も入れておいてください」と言われている方は、その指示を続けてください。そのぶん、外している間のお手入れを、より丁寧に行いましょう。また朝起きたら、まず入れ歯とお口を洗いましょう。
入れ歯は、調整しながら使うもの
補綴(ほてつ)専門医として、もう一つお伝えしたいことがあります。
入れ歯は、作ったら終わりではありません。義手や義足と同じように、使いながら調整していくものです。お口の中は少しずつ変わっていくので、以前は合っていた入れ歯も、だんだん合わなくなることがあります。
合わなくなった入れ歯は、すき間に汚れがたまりやすく、痛みの原因にもなります。痛いところがあるときは、無理に使い続けずにかかりつけの歯科医にご連絡ください。またご自分で削ったりバネを曲げたりすると、入れ歯が傷んだり、壊れたりすることがあります。入れ歯の調整を致しますので、どんなときに、どこが痛むのかをお伝えください。
さいごに
入れ歯をつけたまま眠ることが肺炎の原因になるかどうかは、まだ明確になっていません。
ですが、「夜は外して休ませる」「毎日清潔な状態を保つためにしっかりとケアをする」「外したらコップへ」。どれも、今日からできることです。
入れ歯は、毎日の食事を支える大切な道具です。怖がらずに、上手に付き合っていただければと思います。
R歯科医院は、1986年の開業以来、鎌倉市台のこの地で診療を続けてまいりました。大船・鎌倉で、入れ歯のことでお困りの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
参考
- Iinuma T, et al. Denture wearing during sleep doubles the risk of pneumonia in the very elderly. J Dent Res. 2015
- Kusama T, et al. Infrequent denture cleaning increased the risk of pneumonia among community-dwelling older adults. Sci Rep. 2019
- Takeuchi K, et al. Denture wearing moderates the association between aspiration risk and incident pneumonia in older nursing home residents. Int J Environ Res Public Health. 2019
- 日本義歯ケア学会「義歯のキュア・ケアに関するガイドライン」
- 厚生労働省「令和6年歯科疾患実態調査結果の概要」
- Felton D, et al. Evidence-based guidelines for the care and maintenance of complete dentures: a publication of the American College of Prosthodontists. J Prosthodont. 2011
