「紙巻きタバコはやめて、加熱式に変えました」
診療室でそうお話しされる方が、近年とても増えました。実際、2019年の国民健康・栄養調査によると、喫煙されている方の4人に1人が加熱式タバコを使用しているとされています。
「煙が出ないから」「においが少ないから」「害が少ないと聞いたから」。切り替えた理由はさまざまだと思います。では、歯ぐきにとってはどうなのでしょうか。
今回は、この問いに対する歯科の学会の見解をお伝えします。前回の記事で、喫煙が歯周病の最大の環境リスクファクターであることをお話ししましたが、その続きにあたる内容です。
まず、結論からお伝えします
日本歯周病学会は、加熱式タバコについて注意を喚起する見解を公表しています。日本歯周病学会を含む口腔領域の9つの学会が合同で出した注意喚起もあります。
その内容を、要点だけ挙げます。
1.有害な化学物質が含まれています
加熱式タバコは、タバコの葉を加熱して発生させたエアロゾルを吸い込む製品です。そのエアロゾルには、紙巻きタバコの煙と同じように、ニコチンや発がん性物質などの有害な化学物質が含まれているとされています。吐き出されたエアロゾルにも発がん性物質が含まれる、と指摘されています。
2.害が少ないかどうかは、まだわかっていません
これが最も大切な点です。
加熱式タバコが市場に出てからの歴史は浅く、長期的な健康への影響は不明とされています。お口への影響についても同様です。ニコチン以外の有害物質の曝露量は紙巻きタバコより少なくなるかもしれない、とはされています。しかし、有害化学物質の曝露に安全な量というものはなく、タバコに関連する病気のリスクが減るという科学的根拠は、現時点では得られていません。
3.かえって禁煙が難しくなる可能性があります
加熱式タバコには、紙巻きタバコとほぼ同じ量のニコチンが含まれています。ですから、完全に切り替えたとしても、ニコチンへの依存は続きます。学会の見解では、そのために禁煙の意思が低下し、喫煙を続ける期間が長引くことになる、と指摘されています。
「歯の着色が少ない」は、健康とは別の話です
加熱式タバコについて、紙巻きタバコに比べて歯の着色や歯ぐきの細胞への影響が少ない、という主張を目にすることがあります。
ただし学会は、こうした主張の根拠がタバコ会社などによる独自のデータであり、臨床的に安全性を示す根拠は得られていないと述べています。実際、2022年にはタバコ関連企業が発表した研究について、学会が具体的な問題点を挙げて指摘する見解を出しています。
着色が少ないことと、歯周組織が守られていることは、別の話です。見た目が変わりにくいために、かえって変化に気づきにくくなる可能性すらあります。
気づきにくさは、変わりません
前回の記事で、喫煙している方は歯ぐきの血流が悪いために出血が起こりにくく、歯周病のサインが隠れてしまうことをお話ししました。
加熱式タバコにも、紙巻きタバコとほぼ同じ量のニコチンが含まれています。ニコチンには血管を縮める働きがありますから、この「気づきにくさ」が解消されると考える根拠は、今のところありません。
「加熱式に変えたから、もう大丈夫」とは、残念ながら言えないのです。
それでも、切り替えたこと自体を否定はしません
ここまで厳しい内容が続きましたので、誤解のないようにお伝えします。
私たちは、加熱式タバコに切り替えた方を責めるつもりはまったくありません。切り替えられたということは、健康について何かしら考えられたということです。その入口としては、意味があったのだと思います。
お伝えしたいのは、「切り替えたから安心」で止まらないでいただきたいということです。学会の見解が示しているのは、「加熱式は危険だ」ということではなく、「安全だという根拠がまだない」ということです。わからないものを、わかったことにしないでいただきたい。それだけです。
私たちができること
もし禁煙をお考えでしたら、医科の禁煙外来の受診をおすすめしています。ニコチンへの依存が続いている以上、意志の力だけで乗り切ろうとするより、専門的な支援を受けられるほうが確実です。
そして、「今すぐ禁煙は難しい」という方にも、していただけることがあります。ご自身の歯ぐきが今どういう状態なのかを、知っておくことです。出血というサインが出にくい以上、検査で調べるほかに知る方法がありません。
受診の際は、加熱式タバコを使われていることを、遠慮なくお知らせください。紙巻きタバコと同じように、治療の見通しを一緒に考えるうえで必要な情報です。おうかがいするのは、責めるためではありません。
R歯科医院は、1986年の開業以来、鎌倉市台のこの地で予防を大切にした診療を続けてまいりました。大船・鎌倉で歯ぐきの状態が気になる方は、まずはお気軽にご相談ください。
参考
- 日本歯周病学会「新型タバコ(加熱式タバコ)に関する見解」
- 口腔9学会合同脱タバコ社会実現委員会「新型タバコ、特に加熱式タバコに関する注意喚起」
- 日本歯周病学会「ポジション・ペーパー 歯周治療における禁煙支援の手順書」
