歯周病にはさまざまな原因がありますが、生活習慣の中で最も大きく影響するものが何かご存じでしょうか。
日本歯周病学会は、喫煙を「歯周病の環境因子からみた最大のリスクファクター」と位置づけています。歯周病を分類する仕組みの中に「喫煙関連歯周炎」という区分をわざわざ設けているほど、はっきりとした関係が認められています。
今回は、タバコが歯ぐきに何をしているのかを、少しくわしくお話しします。
よく磨いているのに、進んでしまう
喫煙されている方から、こんな声をよく聞きます。「毎日ちゃんと磨いているのに、歯ぐきが悪いと言われる」。
実は、これには理由があります。
喫煙している方と、していない方とで、歯垢(プラーク)の付着量そのものには大きな差がないことが報告されています。それにもかかわらず、喫煙している方では歯を支える組織の破壊が進みやすい。同じだけ磨いていても、結果が違ってくるということです。
原因はいくつか考えられていますが、大きいのはニコチンの作用です。ニコチンには血管を縮める働きがあり、歯ぐきの血流が悪くなります。すると酸素や栄養が届きにくくなり、傷を治す力が落ちます。加えて、歯ぐきの組織をつくる細胞そのものがニコチンによって傷つけられることもわかっています。
つまり、汚れの量ではなく、体の側の守る力・治す力が落ちているのです。
血が出ないから、気づけない
もう一つ、知っておいていただきたいことがあります。
歯周病の初期のサインは、歯みがきのときの出血です。ところが喫煙している方は、歯ぐきの血流が悪いために、この出血が起こりにくくなります。
一見すると「血が出ないから健康」と思えてしまいます。ですが実際には、炎症は起きているのに、そのサインだけが隠されている状態です。この現象は、歯科では「マスキング」と呼ばれています。
そのため、ご自身では異常に気づけないまま病気が進み、気づいたときにはかなり進行していた、ということが少なくありません。喫煙されている方にとって、定期的なチェックの意味はここにあります。痛みや出血を待っていては、間に合わないことがあるからです。
治療の効きも、落ちてしまいます
歯周病になってしまったあとの話もしておきます。
喫煙されている方では、歯周治療の効果が非喫煙者に比べて低下すると報告されています。学会の資料では、その低下の幅は40〜80%という報告もあると紹介されています。歯石を取る治療でも、外科的な治療でも、インプラント治療でも、同じ傾向が見られています。
そして、この影響は吸う本数が多い方ほど強く出ることも示されています。
私たちが治療をお引き受けするうえで、患者さんの喫煙の有無をおうかがいするのは、そのためです。治療の見通しを一緒に考えるために必要な情報だからで、責めるためではありません。
ご自身だけの問題ではありません
近年は、受動喫煙についても研究が進められています。
タバコの煙は、吸っている本人だけでなく、周囲の方の全身、そして歯周組織にも影響がみられるという報告があります。ご家族と暮らしている方にとっては、ご自身の歯ぐきだけの話ではなくなります。
さらに、タバコを消したあとも室内に残る成分による健康への影響についても、注意が必要だと指摘されるようになってきました。この分野はまだ研究の途上にありますが、少なくとも「自分の体だけの問題」と考えないほうがよさそうです。
禁煙すると、どう変わるか
ここからは、少し明るい話です。
禁煙すると、歯ぐきの血流は比較的早い段階で回復することが報告されています。数週間という単位です。
ここで一つ、知っておいていただきたいことがあります。禁煙したあと、かえって歯ぐきから血が出るようになることがあります。これは悪化したのではありません。これまで隠されていた炎症のサインが、血流が戻ったことでようやく見えるようになった、という現象です。驚かれる方が多いのですが、むしろ体が正常な反応を取り戻した証拠と考えられています。
治療の効き方についても、禁煙された方は、もともと吸っていない方とほぼ同じくらいまで反応が戻るという報告があります。
ただし、正直にお伝えしておきたいこともあります。歯を失うリスクが吸っていない方と同じ水準まで下がるには、5〜10年という時間がかかるとされています。すぐに元どおりになるわけではありません。
だからこそ、早いほうがよいのです。そして、何歳からでも意味がないということはありません。
お口の状態を知ることから
禁煙は、簡単なことではないと思います。私たちも、それを軽く考えてはいません。
もし禁煙をお考えでしたら、医科の禁煙外来の受診をおすすめしています。専門的な支援を受けられる場です。
一方で、「今すぐ禁煙は難しい」という方にも、していただけることがあります。それは、ご自身のお口が今どういう状態なのかを知ることです。出血というサインが出にくい以上、検査で調べるほかありません。歯ぐきの状態を数値で把握しておけば、進行を早い段階で見つけられます。
R歯科医院は、1986年の開業以来、鎌倉市台のこの地で予防を大切にした診療を続けてまいりました。大船・鎌倉で、歯ぐきの状態が気になる方は、まずはお気軽にご相談ください。喫煙されているかどうかで対応を変えることはありません。今の状態を一緒に確認するところから始めましょう。
参考
- 日本歯周病学会「ポジション・ペーパー 喫煙の歯周組織に対する影響」
- 日本歯周病学会「ポジション・ペーパー 歯周治療における禁煙支援の手順書」
