「むし歯は治したから、もう安心」。そう思われている方は多いかもしれません。
しかし、一度治療した歯は、健康な歯とまったく同じ状態に戻ったわけではありません。
今回は、治療した歯がなぜ弱くなりやすいのか、その仕組みについてお話しします。何が起きているのかを知っていただくことが、ご自分の歯を守るきっかけになればと思います。
削った歯は、元には戻りません
歯は、一度削ると元には戻りません。
削った部分は詰め物や被せ物で補いますが、人工物と歯の境目は、年月とともに傷んだり、すき間ができたりすることがあります。
そこから再びむし歯になったり、詰め物が外れたりすると、もう一度削って詰め直すことになります。
やり直すときには、古い詰め物を外し、その下の傷んだ部分も取り除くため、削る範囲は前より広がりやすくなります。
こうした治療をくり返すうちに、健康な歯の部分は少しずつ減っていきます。
歯の強さを左右するのは、残っている歯の量です
歯の強さに大きく関わるのが、どれだけ健康な歯が残っているかです。
特に奥歯の手前側と奥側には、「辺縁隆線(へんえんりゅうせん)」と呼ばれる壁のような部分があります。噛む力を受け止め、歯の形を保つ枠のような役割をしています。
抜歯された歯を使って、歯のたわみにくさを測った研究があります。
この研究では、根の治療のために小さな穴を開けただけでは、たわみにくさの低下はわずかでした。
一方、むし歯の治療で歯の側面の壁を両側とも失うと、たわみにくさは大きく低下していました。
つまり、歯の強さには「神経があるかないか」だけではなく、健康な歯の部分がどれだけ残っているかが大きく関わっています。
むし歯が歯と歯の間に広がるほど、また治療をくり返すほど、この大切な壁は失われていきます。
神経を取った歯が割れやすいのは、なぜでしょうか
むし歯が深く進むと、歯の神経を取る治療、いわゆる根管治療が必要になることがあります。
根管治療は、悪くなった歯を抜かずに残すための大切な治療です。
ただ、全国の歯科医院で抜かれた歯を調べた調査では、神経のない歯は、割れたことが原因で抜歯になったものが多くみられました。くわしい数字は、こちらの記事で紹介しています。
その理由として、以前は「神経を取ると歯の水分が失われて、もろくなる」と説明されることがありました。
しかし、神経を取った歯と取っていない歯を比べた研究では、歯の中の水分量に大きな差はみられませんでした。
また、象牙質という歯の内側の層についても、強さや割れにくさに大きな違いはみられなかったとする研究があります。
これらの研究からは、神経を取った歯が割れやすくなる大きな理由の一つは、神経を取ったことそのものよりも、そこに至るまでのむし歯や治療によって、歯の量が大きく失われていることだと考えられます。
神経を取る治療が必要になる歯の多くは、それまでに深いむし歯があったり、何度か治療を受けていたりします。
その結果として、治療する前からすでに、健康な歯の部分が少なくなっていることも珍しくありません。
痛みが出にくく、変化に気づきにくい歯です
神経を取った歯は、冷たいものや熱いものがしみる、といった歯の内側からの痛みを感じなくなります。
そのため、詰め物や被せ物の境目からむし歯が再発しても、自覚症状が出にくく、気づいたときには進んでいることがあります。
小さなヒビも、初めのうちは自分では気づきにくいものです。
ただし、神経を取った歯でも、まったく痛みを感じなくなるわけではありません。
噛んだときの痛みや、歯ぐきの腫れなど、歯の周りの組織から症状が出ることはあります。
こうした変化がある場合には、早めに歯科医院へご相談ください。
治療した歯を、長く使うために
すでに治療した歯がある方も、心配しすぎる必要はありません。
大切なのは、治療した歯をこれからどう守っていくかです。
被せ物などで、残っている歯を守る
根の治療をした歯について、被せ物をした歯のほうが長く残っていたという研究があります。
ただし、根の治療をした歯のすべてに、同じ形の被せ物が必要というわけではありません。
前歯なのか奥歯なのか、どれくらい健康な歯が残っているのか、噛み合わせはどうなっているのかによって、適した治療方法は変わります。
境目やヒビを、定期的に確認する
神経を取った歯は変化があっても痛みが出にくいことがあります。
だからこそ、詰め物や被せ物の境目、むし歯の再発、小さなヒビなどを定期的に確認することが大切です。
噛み合わせを確認する
特定の歯に強い力がかかり続けていないかを確認することも、歯を長く使っていくうえでは大切です。
当院では、定期的なチェックの際に、詰め物や被せ物の境目だけでなく、噛み合わせの状態も確認しています。
大切なのは、「治療のサイクル」に入らないことです
こうして見ると、歯を失うまでの流れには、一つのパターンがあります。
むし歯になる
→ 削って詰める
→ また悪くなる
→ 神経を取る
→ 歯の量がさらに少なくなる
→ 割れる
→ 抜歯
私たちは、こうした流れを「治療のサイクル」と考えています。
だからこそ大切なのは、まず最初のむし歯をつくらないことです。
そして、むし歯ができてしまっても、できるだけ早い段階で見つけ、削る量をできるだけ少なくすること。
すでに治療した歯がある場合には、次のやり直しをできるだけ先に延ばすこと。
定期的なチェックには、そのための意味があります。
まとめ
治療した歯が弱くなりやすい大きな理由は、治療をくり返す中で、健康な歯の量が少しずつ失われていくことです。
神経を取った歯が割れやすいのも、「神経を取ったから歯そのものが急にもろくなった」という単純な話ではありません。
そこに至るまでのむし歯や治療によって、どれだけ歯の量が失われているかが大きく関わっていると考えられます。
一度失った歯は、元には戻りません。
だからこそ、最初のむし歯を防ぐこと。そして治療した歯は、再治療をくり返さずに済むように守っていくこと。
それが、ご自分の歯をできるだけ長く使っていくために大切だと、私たちは考えています。
R歯科医院は、1986年の開業以来、鎌倉市台のこの地で診療を続けてまいりました。現在も、できるだけ健康な歯を残し、必要以上に削らないことを大切にしています。
大船・鎌倉で、以前治療した歯や、詰め物・被せ物について気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。
参考
- Reeh ES, Messer HH, Douglas WH. Reduction in tooth stiffness as a result of endodontic and restorative procedures. J Endod. 1989.
- Sedgley CM, Messer HH. Are endodontically treated teeth more brittle? J Endod. 1992.
- Papa J, Cain C, Messer HH. Moisture content of vital vs endodontically treated teeth. Endod Dent Traumatol. 1994.
- Aquilino SA, Caplan DJ. Relationship between crown placement and the survival of endodontically treated teeth. J Prosthet Dent. 2002.
- 公益財団法人8020推進財団「第2回 永久歯の抜歯原因調査 報告書」(2018年)
